統一地方選にのぞむ前、地方議員計3万3416人のうち、女性は3926人となったことが分かった。1970年代の1%程度から徐々に増えてはいるものの、今もって日本では女性議員は1割強の11・7%にとどまっている。我孫子もかつては女性市議議員が3割以上を占める市区町村議会の一つだったがそれも候補者が続かず、現状で53議会、全体の3%と少ない。
各国で選挙制度や議会の役割などが違うので単純に比較するのは難しいが、欧州連合(EU)の欧州委員会の2013年調査では、欧州30カ国の地方議会に占める女性の割合は、それでも平均で3割を超える。
駒沢大学の大山礼子教授(政治制度論)は「欧米では、学校教育などの身近な問題を扱う地方政治には女性のほうが関心が高く、国会より女性の割合が高い傾向にある」という。「欧州では女性の方が多い地方議会もたくさんある。日本のような『女性ゼロ』議会の多さは、他の先進国では考えられない」と指摘する。
379の「女性ゼロ」議会は、市が49、町村が330。最も議員数が多いのは34人の愛媛県今治市議会で、議員数が20人以上の議会は22市町ある。日本最大の「女性ゼロ」議会である愛媛県今治市議会。直近の13年の選挙は、候補者にも女性はいなかった。地元のボランティア団体会長(50)の出馬が取りざたされたことはあった。行動力を買われ、複数の知人から打診されて考えているうちに、「出るらしい」といううわさが広がると、「子どもがかわいそう」などと反対する親族もおり、結局、立候補までには至らなかった。
今治市長・菅良二(71)は、「女性議員は、家庭との両立が難しい。議員の半数以上は『地域代表』で、いままでの積み重ねも必要」と話す。市民から「女性がもっと議会に出んとね」と励まされることもあるが、「女性がそんなにおらんでもよか」との声も耳に入った。市内に住む50代の女性は「男が出るのは”それほお考えてきたのか”と思えるけど、女が出たら、”えっ、なんで出たの?”と思う。順番としたらまず男(夫か息子)が出るでしょ」と言う。女性にとっては、当選するかどうか以前に、立候補自体が難しいのが現実だ。「女は家の中だけ。外のことは男」という意識が地域社会には根強く残る。
19人全員が男性議員の福岡県直方(のおがた)市議会。03年に農業の竹松房子さん(63)が立候補を決意したとき、立ちはだかったのは義父だった。「地元の議員をずっと応援してきた。ここで選挙は許さん」。それでも「出ますから、すみません」と地域の男性たちに頭を下げて回ると、決まって「あんた、家の仕事どうすると?」と聞かれた。「孫、子の代まで恨まれる」とまでいって、止めに来た女性もいた。
農家の長男に嫁ぎ、朝から晩まで働きづめでも給料はない。「まるで昔の女中。貯金も通帳もなく、年をとったら子どもに面倒みてもらわないと生きていけん。変でしょう」。女性たちのネットワークの支援もあって、28人中24位(定数25)で当選。2期つとめた。だが3選に挑んだ11年の選挙で落選。「女性の意識は少しずつ変わりつつあるけれど、政治は男がやるものという意識を変えるのは難しい」と話す。
地方議会への女性の参画に詳しい京都女子大の竹安栄子(ひでこ)教授(社会学)は、女性の立候補を阻む「壁」として、
@社会と女性自身の中にある性別による役割分業意識
A家族・親族の反対B男性優位の地域社会――を挙げる。「女は家、男は仕事」といった意識を克服して出馬を決めても、「嫁入り婚が多い日本では、『夫より前に出るのか』と親族に反対されることが多い」。自治会長の95・3%を男性が占める(14年度、内閣府調べ)など、日本の地域社会の中心も実は男性だ。
■女性議員の多い議会は慣例を疑問視、議会改革が促進
一方で、神奈川県大磯町議会は男性5人に対し、女性8人。大阪府島本町議会は、男女が7人ずつだ。両町はともに、大都市のベッドタウンで新住民が多い。活発な市民運動から、女性議員が多く誕生してきた。
女性議員が増えると、町の政策は変わるのか。竹安教授は「所属政党や会派が別であれば結束が難しいため、必ずしも特定の政策が一気に進むわけではない」と指摘する。むしろ目立つのは、議会の透明度が高まったケースだ。03年に女性9人が当選し半数(当時は定数18)になった大磯町議会では、04年からケーブルテレビでの議会中継を始めた。議会だよりでは各議員の議案賛否の結果を公表。09年には町民への情報公開をうたう議会基本条例が成立した。このケースは、我孫子市より透明化の速度が約5年ほど速いといえる。
前回11年の町議選では女性候補全員の8人が当選したが、男性は16人中10人が落選。奥津勝子議長(71)は「女性の方が負託を受けているという気持ちが強く、改革が進む」と、女性が支持される理由を分析する。大磯町の男性幹部は「女性議員は透明性を求め、『住民のために』と細かい指摘が多い。行政の煩雑さは二の次になってしまう」と話すが、子育て支援課の男性職員は「女性議員は『議員さん』ではなく保護者の一人として生の声を持ってきてくれる」と歓迎する。
島本町議会で01年から4期務める平野かおる議員(60)は「女性議員はどんどん質問する。男性議員は当選までは熱心で議会で質問しなかった。議会以前の根回し政治だったが、議会で本音を言い合う議会に変わった」と話す。
平野さんが初当選した01年の選挙で女性8人が当選し、女性比率が初めて4割を超えた。その前年に一般質問をした議員の延べ人数は28人だったが、なんと13年は37人。平野さんの会派の呼びかけで、03年度には本会議などの際に公費で議員に支給されていた弁当を私費に切り替えた。
当然視されていた慣例が女性議員の指摘で変わることもある。宮城県加美町で議員20人のうち唯一の女性、伊藤由子議員(69)は09年の初当選後、女性職員がしていた議員へのお茶だしに疑問を持った。伊藤さんが提案を続け、昨年3月、議員が自分でお茶を入れることにした。さらに紙コップを節約しようと、自分のマグカップを置いておくマイカップ方式も提案しているが、「自分でコップを洗うのは面倒」という男性議員もおり、持ってきているのは5人だけという。
議員9人の北海道ニセコ町議会で唯一の女性、斉藤うめ子さん(67)は11年の当選後、議会が閉会した後の宴席に、札幌から片道2時間半かけて女性コンパニオン2人を呼ぶ慣例に異を唱えた。費用は議員が私費で払っていたというが、「町民に誤解される」と呼ぶのをやめた。
議会の改革度と女性議員の多さに関係はあるのだろうか。早稲田大学マニフェスト研究所は、自治体の情報公開や住民参加の度合いを評価基準にした「議会改革度」のランキングを作っている。11年に女性議員比率と議会改革度の関係を調べたところ、改革度が高い議会ほど、女性議員比率が高いという結果が出た。
質問に回答した1356議会のうち、議会改革度の順位が上位100位以内の自治体と、1301位以降の自治体とでは、女性議員比率に約7ポイントの差があった。同研究所は「多様な考え方が反映されることで議会が活性化し、価値観の転換が促進されるといった影響も考えられる」としている。
その点で、女性の進出しにくい県議会は古い体質が維持され、昨年のような議員特権と履き違えた男性議員が数多くマスコミで取り上げられてひんしゅくを買ったが、女性議員が多くなりつつある地方議会ではこうしたことへメスが入ってきたことが明らかだ。
■異なる視点でチェックを
《鳥取県知事を2期務めた元総務相の片山善博・慶応大教授の話》 県知事時代(1999〜2007年)、議場に臨むと大半が男性で、異様とも思える光景だった。そもそも、県庁や市役所の財政当局はほとんど男で予算をつくっており、男女半々の住民が求めるサービスとズレが生じる。それをチェックする議会に、女性がいるかどうかの意味は大きい。公共事業ばかりでなく子育て政策をもっと充実させるようにといった視点も出てくるはずだ。
男ばかりの議会では、どうしても談合や八百長スタイルになってしまう傾向がある。こうした体質を変えるためにも、女性議員という異なる視点をもった存在が加わる必要がある。
人口減に直面する地方議会は、若い人たちにどうやって地域に残ってもらい、支えてもらうかが大きな課題。「最近の若者の動向はどうか」と市長や役所の幹部に尋ねるのではなく、直接若い市民が答えるのがいい。働く女性や若者などの市民が、おじさん任せのこれまで政治に意識変革を求め、議会が自分たちに役立つように関わってみてほしい。
上記のテータなど、統一地方選を目前に、朝日新聞が全国の都道府県議会と市区町村議会に1月1日時点の状況についてアンケートを依頼し、回収や直接取材によって全議会から回答を得ての記事である。全国の地方議会1788のうち、2割超にあたる379の市町村議会に女性が1人もいないことがわかった。町村では35%を超え、九州や東北で女性議員の少なさが相変わらず目立つ、日本の現状である。
参照:
朝日デジタル2月23日