その人の顔はよく知っているのに、名前が思い出せない。
それで、つい「あれ」「あの人」などと言ってしまう…という状態は、単純な記憶力の問題とは区別して考えた方がいい面があります。その原因と考えられるのは、多くの場合、次のどちらかです。
●普段しゃべる機会が少ない。
●(よくしゃべっているものの)自分の言いやすい言葉ばかり使っている。
認知症と発語量の関係を調べるため、発語カウンターという計測器を使って、人が1日にどのくらいしゃべっているのかを調査し、そのときによくわかったのは、「人は案外しゃべっていない」という事実でした。
この研究で、認知症状に向かっていきにくい発語量の基準として「1日2000語」という仮の結論を出したのですが、毎日それくらいしゃべっている人は多くなく、挨拶や返事以外の言葉を1語も話さず生活している人も珍しくありませんでした。
若い世代にもそうなっている人がたくさんいると思います。
英語の単語ならともかく、母国語である日本語を忘れるはずがないと思われるかも知れませんが、完全には忘れなくても、「概念と語彙を結びつける力が弱くなる」ということは起こるのです。
まずは、できるだけ発語する機会を増やすよう心がけていくことです。
会話する相手に恵まれていない場合には、とりあえず音読を毎日の習慣にして下さい。
続いて、2つめのケースです。
こちらの方がより一般的だと思いますが、しゃべってはいるものの、自分が言いたい言葉、言いやすい言葉ばかり使っている。その結果、普段あまり使わないような言葉が思い出しにくくなっているというパターンです。これは一言でいえば、 意志的に言葉を選択して使う力が落ちているということだと思われます。
会話をする相手が限られている場合には、第三者を交えることを心がけるといいと思います。
その第三者というのは、人ではなく、本や雑誌の記事でもかまいません。
それを傍らに置いて、たとえば、「この『生物と無生物のあいだ』という本は面白かったよ」
「へぇ、どんなことが書いてあったの?」「『動的平衡』という言葉がキーワードになっているんだけど…」
という風に、普段使わない言葉を使ってしゃべってみる。
映画やDVDを見た後に、感想を話し合うのも良いでしょう。
誰でも学生時代までは、自分の興味のない分野でも必修で勉強し、幅広い語彙に触れ、それを使っているものですが、社会人になると、自分の専門分野しか勉強しない、興味があることしか話さない、という風になっていきがちです。そうすると、自由に使える語彙も限られていってしまう。
そういう硬直した状態を変えていこうとする意識を持つようにして下さい。
脳神経外科医、築山節
『脳から自分を変える12の秘訣』新潮文庫
職業別の寿命では、僧侶が1位だという。
その大きな理由の1つが、読経(どきょう)ではないか、と言われている。
読経という「音読」は、脳を活性化し、言葉を忘れにくくする。
そして、声を出すことにより、呼吸法が自然とできることも大きい。
また、普段使わない言葉を使うには、読書が一番だ。
それは、それを誰かに話したり書いたり、というアウトプット型の読書だ。
読書もいくら冊数を読んだからといって、インプットだけに終わってしまっては脳は活性化しない。
普段より、読経や素読(そどく)をしたり、祝詞(のりと)をあげたりする。
そして、多くの本を読み、それを誰かに語る。
いつまでも、脳を活性化させておく習慣を身につけておくといいようです。