スワジランドは、日本の四国とほぼ同じ面積で、人口は約125万人。1968年、英国よりて独立した南アフリカとモザンビークに囲まれた内陸国。伝統文化やその暮らしぶりから「最後のアフリカ古王国」とも呼ばれるが、女性たちの教育が必要とされていないとなるとどうなるかの例がここにある。成人の約3人に1人がエイズウイルス(HIV)に感染、羅漢率は世界一とされる。女性たちは、若いうちに子供を産んで、エイズ感染、避妊についての知識も欠如のためだ。
特に30〜34歳の女性では54%、35〜39歳の男性では47%だ。現地でHIV対策に取り組む国際協力機構(JICA)の持田敬司調査員は「ここまで広まってしまった原因の一つに、この国の文化や風習があることは否めません」と話す。避妊したりHIV検査に行ったりすることを見下す風潮があるという。
男尊女卑の傾向が強く、一夫多妻制の風習が残るスワジランドでは、男性の多くが、交際している女性の数を誇ったり性交渉の回数を自慢したりする傾向がある。レイプや既婚の中年男性が10代の少女が交際することも、当たり前のように行われている。女性が教育を受ける機会も経済力も持たないままで、家庭内暴力を黙認する社会がある。
毎年8月下旬、首都ムババーネ近郊で国内全土の集落から、少女、若い未婚女性らが集まってリード(アシ)のダンスに集う。その数、約8万人。裸の上半身に伝統的な飾りを身につけ、「今こそ王家に集う時」などと足を踏みならして歌う。王家への忠誠を示す祭りだ。古来の風習を取り入れて、1940年代に始まったとされる。
女性たちは王宮にアシを献上すると近くの競技場に移り、観客席にいる国王ムスワティ3世(46)の前で踊りを披露した。終盤には国王も競技場に下り、駆け足で女性たちを見て回る。
女性たちがリードダンスに熱狂するのは、国王が毎年のように、この祭りを通じて新たな妃を選んできたからだ。一夫多妻制の風習が残るスワジランドで、国王の妻は14人いるといわれる。見初められれば、裕福な暮らしが約束される。
参加者の一人、ノジコ・ンバータさん(18)は「リードダンスは母国の文化。参加できて誇りに思う」。ノシミロ・ワイトロンさん(19)は「来年こそ、妃に選ばれたい」と笑った。しかし、一方で、この固有の祭りは、HIV感染率を世界一にまで高めてしまった「象徴」ではないかとの声もある。
国王や政府は、コンドームの使用や不特定多数との性交渉を控えるよう呼びかけているが、HIV関連の教育に携わるNGO「ニーチェ」のレイモンド・モー共同設立者は、「自らはリードダンスで毎年のように年少の妻をめとっている国王の発言に説得力はない」と話す。
■感染者「周囲が急に冷たくなる」
南アフリカとの国境沿いの村で暮らすランギレ・ドラミニさん(36)は、「ここでは、女性は子どもをたくさん産むことが求められる。だからHIVに感染すると、子どもを産めないと誤解され、周囲が急に冷たくなる」と打ち明けた。
世界保健機関(WHO)の統計(11年)によると、スワジランドでは1人の女性が約3・3人の子どもを産む。ランギレさんは10代後半、年上の男性と性交渉を持った。「学校や家庭で性について語ることはタブーだった。そういうものだと思っていた」
22歳の時、体調が急変し、検査でHIV感染が確認された。以来、仕事に就くことができない。
感染前に1人、感染後に2人の子どもを産んだ。母子感染は免れたが、子どもたちには自らの感染のことは話していない。将来、子どもたちが学校や職場で偏見や差別を受けることを心配するためだ。
ランギレさんは「スワジランドは小さな国。子孫を増やして国や民族を守るためには、一夫多妻制やリードダンスのような文化は必要だと思う」。その上でこう言った。「でも、それがHIVの感染拡大や偏見につながっているのだとしたら、私たちは文化を少しずつ変えなければならないのかもしれません」
参照:
朝日デジタル(ムババーネ=三浦英之)