2014年05月21日

風評被害は第五福竜丸の放射能パニックから始まる

朝日新聞デジタル 5・19 

人気漫画「美味しんぼ」の福島第一原発事故を巡る描写が議論を呼んでいる。論点は「風評被害」と「科学性」だ。この問題が先鋭化してしまう背景には何があるのだろう。

■風評被害、根底にあるのは不安

 作品には鼻血と被曝(ひばく)を関連づける描写などがあった。福島県は「本県への風評被害を助長するもの」で断固容認できないとした。

 風評被害とは何か。

 「事故などの社会問題が報道されることによって、『安全』とされるものを人々が危険視し、消費や観光などをやめることで起こる経済的被害のことです」

 風評被害の歴史に詳しい関谷直也・東京大学特任准教授(災害情報学)はそう語った。「ある食品が安全でないと判断されれば、それによる経済的被害は『実害』です。でも、安全だとされながら被害の出る例も繰り返し起きてきた。それが『風評被害』です」

 定義では「安全なもの」ではなく「『安全』とされるもの」とした。「風評被害は主体によって判断が分かれるものだから」という。

 風評被害という言葉は原子力の分野から生まれた、と関谷さんは言う。最初の例は、第五福竜丸事件を引き金にした1950年代半ばの「放射能パニック」だ。マグロ漁船が水爆実験の「死の灰」を南洋で浴びた事件を機に、消費者がマグロなどを忌避した。政府は当時、風評にあたる被害にも補償をしたという。

 50年代の半ばといえば、原子力基本法が制定された時期でもある。風評被害の歴史には「日本における核の平和利用」の歴史と同じだけの長さがあることになる。

 74年の原子力船「むつ」の放射線漏れ事故ではホタテ貝の価格が低落した。核燃料加工施設JCOの臨界事故(99年)でも農産物などに経済被害が出た。他方、重油流出や火山噴火など原子力以外の分野でも風評被害という言葉は使われるようになった。

 この春に関谷さんが行った調査では、「福島県ではそのうち健康被害が出る」と信じている人が東京23区で22%、福島市でも12%いた。風評被害の底にある心理は恐怖ではなく不安だ、と関谷さんは語る。「恐怖」が具体的な脅威を認知したときに生じる恐れであるのに対し、「不安」は不確実性の高い脅威に対して生じるという。

 風評被害は原子力行政の穴から生まれた、とも指摘した。原子力損害賠償法では、安全が損なわれた事例(実害)には賠償が想定されていたが、安全だとされる事例には賠償が想定されていなかったからだ。「人々の『心理』を考慮していなかったための穴だ」

 安全だという認定を維持したまま、実在する被害者を救済する手段として、風評被害という枠組みは形作られてきた。「そうしなければ原子力行政を維持できなかったからです」

 原発のコストには風評被害も含めて考えるべきだ――関谷さんはそう語る。(編集委員・塩倉裕)

■科学性、否定だけでは不十分

 「美味しんぼ」には、「科学的ではない」という批判も目立つ。

 東京大学大学院情報学環の佐倉統(おさむ)教授(科学技術社会論)によると、論文などを専門家が集団的に検証し、より正しい知見を選別するのが、「科学」のプロセスだ。検証された知見は誰でも共有でき、次の議論のスタート地点になる。

 低線量被曝が鼻血の原因にならないことについては、かなりの知見が蓄積されているという。「それを利用するのが科学的態度だ」

 ただ、関連の否定だけでは、鼻血を経験した不安には答えられない。「放射線でなければ何が原因か。科学者にできるのは、科学でもまだわからないから一緒に調べましょうと言うことではないか」

 また、人は身を守るため、「危険かもしれない」という方向に傾いた判断をするように進化しており、「怖い」という気持ちがなかなか消えないという。科学的な知見を使いこなせば、「放射線への恐怖心も手なずけることができるようになると思う」と話す。

 映画監督の想田和弘さんは、美味しんぼについて、「批判・検証は大いにすべきだが、流言飛語だと切って捨てるのはフェアではない」という。放射線と鼻血の関連についての調査はまだ不十分とみており、「鼻血の原因を虚心に探究するのが科学的態度。科学の名の下に、『低線量被曝で鼻血が出るわけない』と主張するのは乱暴でないか」。

 念頭にあるのは、水俣病と有機水銀との関連が否定され被害が広がった歴史。そして「安全神話」が崩れた原発事故そのものだ。(高重治香)

     ◇

 〈美味しんぼ問題〉 問題になったのは、作者の雁屋哲さんが福島県の人々を取材して描いた「福島の真実」編。前半は福島の食の安全を訴え、風評被害を憂えた。後半はなお続く現地での不安を取り上げた。福島県は発行元の小学館に抗議し、閣僚からも批判が相次いだ。

posted by Nina at 00:00| 千葉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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