国内の食の洋風化に伴い、ワイン、マッコリなどが入って来たことによって日本酒の愛飲量は、減少気味になっている。そんな中で、酒どころの一つでもある石川県の若き後継者は、日本酒の普及のため、仕込みの時期以外は、営業で海外出張しています。既に、海外に出る日本酒はシェアの5%ほどなっており、海外での営業の際に、吉田酒造(石川県)は「手取川」というお酒を造っており、その6代目、蔵人でもある吉田泰之さんが映画関係者と知り合ったことから、映像化(2013年)の話が進みました。
日本酒造りの複雑なプロセスは日本でもあまり知られていません。ニューヨークで吉田さんが知り合ったのは、同世代の映画製作者で日系米人、そこで「蔵に来ませんか?」と誘ったという。酒の味は知っていても、普段はカメラにはなかなか写させない酒造りへの現場をみて、感銘を受けます。そこで、見たベテラン杜氏(とうじ)を尊敬するようになり、この希有な日本の伝統文化のストーリーを世界中の人にも伝えたいと、吉田さんを通じて酒造りへの思いを熱らせます。
知っているつもりでいた日本のものの中に、見逃してきた自分の文化のルーツとのつながりや、日本の伝統文化の深さや人との和の大切さを蔵元をみることで発見したといいます。一見シンプルで透明な液体が出来上がるまで、時には激しく、疲弊するような日本酒造りのプロセスを間近で見て、繊細で複雑な手間がかけられていることを肌で感じ、蔵で代々仕事をしてきた人々の息づかいに感銘を受けたと言います。
また、日本酒造りと映画製作はとても似ていると感じます。両者は、つまり、良い結果を出すために、チームの中での信頼と和が必要だと気づくのです。ぜひドキュメンタリーを撮影したいとの申し入れが受け入れられ映像化が実現しました。世界中の人が、この映画によって日本酒をもっと理解し、楽しんでほしいと言います。
6ヶ月間同じ屋根の下で生活をする蔵人たちの生活ぶりを知ることは、これまで酒の味の深みがそこはかとなく伝わります。 今回、紹介の杜氏さんは夏は能登で米を作り、秋の収穫が終わると、冬には蔵にやって来て酒造りをします。酒に関わるその原料の米作りも十分に知っているということです。酒造りのために、こうした20代から60代まで違う世代が協力をしながら、きつい仕事をこなし、同じ釜の飯を食べ、半期の共同生活をしていきます。
撮影は、雪の降る中、大吟醸仕込みで一番忙しい時期に行ったのです。蔵人と一緒に毎朝4時起きの生活をし、撮影を続けていくうちに、蔵人からの信頼も得ることができ、私的な部分も撮影を許してくれるようになりました。仕事をしているときと、休み時間に見せる姿はまるで違っていて、その違いも魅力的だったからでした。
いよいよ、絞りたての素晴らしい「あらばしり」の日本酒を味わった時に、毎朝早起きし、一緒に仕事をし、寝起きを共にしながら蔵人たちの熱意と精神の頂点に居合わせる幸せを感じたといいます。酒造りに皆さんが、プライドをもって仕事をしていると実感します。
ベテラン杜氏は、酒造り52年の経験をもっているからこそ、季節によって米の出来具合が違っている中でも、状況を直感で見極めていきます。杜氏は経験と知識が豊富なだけではなく、長時間の労働が続くプレッシャーの大きい環境下で、まったく世代の違う蔵人たちをまとめあげていく父親的な存在であり、そのカリスマ性は卓越して、酒造りの真髄を具現しています。
"The Birth of Sake" の映像が下記(英語、予告編)でご覧になれます。
http://www.kickstarter.com/projects/1802764272/the-birth-of-sake
*作品の映像化は、キックスターターによって、インターネットを使ってアート、映画、音楽、機転の利いた新商品などのプロジェクトの支援が受けられることになっています。新しいこの方法は、一般の人から広く製作費を募るもので、今、アメリカで注目されています。支援金額は、$1から$1万ドルまで、そして支援金額に応じて、エンドロールに名前を掲載など、特典を提供します。資金提供の規則は厳しいもので、期日までに 目標金額を集めないと、集まったお金は全てサポーターに払い戻されるというオール・オア・ナッシングのルールです。このThe Birth of Sake”は、2014年、公開されることに漕ぎつけたそうです。