あと一歩で閉館という崖っぷちの状況から復活を遂げた水族館として知られている。一時期は入館者が激減して存亡の危機に瀕しながら、クラゲの展示に特化することで息を吹き返し、いまや全国から客が押し寄せる人気水族館となった。
その復活の軌跡は、北海道の旭山動物園に勝るとも劣らないほど劇的である。ご存じの通り、旭山動物園は閉園目前まで追い詰められた状態から這い上がり、入場者数日本一を達成した動物園だ。
加茂水族館の歴史を振り返ると、波乱万丈と言うしかない。現在の場所に市立水族館としてオープンしたのは1964年。当初は近代的な水族館として話題を呼び、年間に20万人の客が訪れていた。だが、オープンから3年目の67年にいきなり売却されてしまう。
売却先は株式会社庄内観光公社という会社だった。鶴岡市が市内の温泉地を観光開発するために立ち上げた第3セクターである。会社は温泉施設を建設して観光事業に乗り出したものの、商売のノウハウはなかった。みるみるうちに赤字が膨らみ、借金の返済を肩代わりさせるために、水族館の売り上げをすべて持っていってしまった。
市立から、第三セクター、経営不振を乗り切る館スタッフの地道な努力、偶然がうんだクラゲ特化の水族館としての運営、さらに再度公営となりながら、様々な紆余曲折を乗り越えた歴史があったが、貧乏水族館の取り組みがぼちぼち報道されて入場者が復活していき、遂には、ミニ公募債が20分で完売する人気を博した。
鶴岡市立加茂水族館の改築費調達を目的にした市の住民参加型市場公募債(ミニ公募債)「加茂水族館クラゲドリーム債」が4月18日、販売開始からわずか20分で発行予定の3億円分が売り切れた。県内4金融機関が県内外の約300店舗の窓口で販売し、約300の法人と個人が購入。市の担当者は予想以上のスピード完売に驚きを隠さず、加茂水族館側は「皆さんの思いに応えられるよう、最高の展示をする」と気を引き締めた。
鶴岡市の鶴岡信用金庫本店営業部では、購入を希望する4組6人が、午前9時の営業開始を待っていた。4組は開店するとすぐに専用窓口で職員と商談に入ったが、購入は他の18支店を含めた先着順のため、中には購入できない人もいた。4組以外の購入希望者も店を訪れたが、9時半ごろには「販売終了」の紙が張り出された。
40万円分を購入した鶴岡市東原町、真島正博さん(75)は「加茂水族館のボランティアガイドを務めたことがある。恩返しの気持ちを込め、少しでも応援したいと思い購入した。ぜひ立派な水族館を建ててほしい」と話していた。
クラゲドリーム債は、償還まで金利が変わらない固定5年。利率は年0.536%で、今月の5年物国債利率に市が0.266%分を上乗せした。購入者全員をリニューアルオープン前の内覧会に招待するなど特典も設け、荘内銀行、山形銀行、きらやか銀行、鶴岡信用金庫で販売した。
市財政課の担当者は「県内外から購入の問い合わせが相次いでいたが、まさかこんなに早く売り切れるとは思わなかった」とし、「今回購入できなかった方には申し訳ない。14年春にも6億円規模の発行を予定しているので、またお願いしたい」と続けた。
加茂水族館の奥泉和也副館長は「最高の展示」を約束し、「新しい水族館に、多くの人たちから期待してもらえてうれしい。楽しみにしていてほしい」と話した。
加茂水族館は来年6月リニューアルオープンの予定。最大の目玉は直径5メートルの円形型水槽「クラゲ大水槽」の設置。市は総事業費約30億円のうち9億円をクラゲ債で賄う方針でいる。
我孫子市は、過日、全国市町村財政貧乏度ランキングワースト2位に掲載(週刊ダイヤモンド6月8日号)がされたが、復活のチャンスにしていける機運を見出す救世主は何だろうか。
出典:
山形新聞 2013年04月19日