千葉ニュータウン開発予定地内の平たんな土地(印西市)が草原化して、貴重な昆虫やホンドギツネなど絶滅の恐れがある動植物が多数生息し、現状を保存すべきだとの声が上がっている。
千葉県白井、船橋、印西市などにまたがり北総台地を細長く切り開いたニュータウン計画。1969(昭和44)年に開発がスタートし、10年間で34万人の都市を完成させ、国内最大の多摩ニュータウンと肩を並べるはずだった。だが、オイルショックなどで何度も計画が見直され、現住人口は約9万人。
1970年代の大規模な造成で里山を崩して生まれた土地が、ニュータウン計画がとん挫して約40年間放置されるうちに草原となって、貴重な動植物の聖地になっていた。これはまさに、浅間山の噴火でできた軽井沢の牧草地が変化していく時のような話だ。「奇跡の原っぱ」と呼ばれるようになったが昨年末、宅地造成が急に動きだし、消滅の瀬戸際にあるという。
我孫子の消費者の会の会員もこの件では、署名運動に加わって、県、国にも意見しようと必死だ。日本生態学会でも、貴重な生態系が創出されており、保護すべきと意見している。ニュータウン計画では莫大な県費を支出して、県財政を圧迫するもとを作ったが、この災い転じて、福と成すという方が良いのではないか。千葉県の貴重な観光資源にしながら、保護することもできるやもしれない。最初に計画ありきではなく、千葉県庁は20世紀の開発重視の頭を柔軟にすべきだろう。
【存在するのか?植物語】植物は隣の植物の声を聞く?
原っぱは、UR(都市再生機構)と県による同ニュータウン事業で最後に残った開発予定地約140ヘクタールの一角を占め、面積は東京ドーム11個分の約50ヘクタール。北総線印西牧の原駅の北に広がっている。開発初期に山を崩し湿地を埋めて平らにした。
原っぱでは、今ではほとんど見られなくなったホンドギツネの営巣が確認され、エサのノウサギも豊富。トンボなども含め環境省指定の絶滅危惧種27種、千葉県指定109種を含む多様な生き物の生態系が成り立っている。現地に詳しい日本自然保護協会の高川晋一農学博士は「駅から徒歩圏内に国立公園級の生態系があるのは、驚嘆に値する」と話す。
印西の原っぱは県有地で、URが定期的に草刈りをして管理する。ニュータウン開発事業は今年度末で終了期限を迎えるが、今の全体の人口は約9万人で、目標の約14万人に届かない。不況や人口減で宅地需要が見込めず、原っぱは本格造成を免れてきた。高川さんは「県有地で人が入らず、草刈りされているため森にもならないなど人為的要素が重なって成立した」とみる。
だが昨年11月、URは原っぱの南側の樹林を大量伐採し、宅地造成を開始。地元で「売れるあてがまったくないのに、なぜ造成をごり押しするのか」と批判が上がり、原っぱや近くを流れる川の保全活動に取り組む市民グループ「亀成(かめなり)川を愛する会」が署名活動を始めた。政府がほぼ全額出資するURは造成開始の直前に会計検査院の調査を受け、大量の未利用地を抱える状況を改善するよう求められていた。
今月13日には、全国の研究者で組織する日本生態学会(会員約4000人)が、造成の一時中断や原っぱの保全などを県とURに申し入れた。学会メンバーの西広淳・東邦大理学部准教授も「関東地方で保全すべき草地を1カ所挙げるとすれば、この地域だ」として、貴重な自然と共存するよう土地利用の再検討を求める。
一方、UR千葉ニュータウン事業本部は取材に「事業終了期限の来年3月までに造成を終えたい」とし、申し入れに応じず造成を急ぐ構えだ。
毎日新聞 6月16日(日)10時57分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130616-00000006-mai-soci