堺屋太一の新刊『人を呼ぶ法則』(幻冬舎新書)が出た。際だったキャリアの作家で、元通産官僚・経済企画庁長官(第55〜57代)・元内閣特別顧問。なんといっても'70年大阪万博博覧会のプロデューサーとなって大成功させているのは、日本の官僚がすべてがこうではないにしても、批判は強いがエリート層の厚さを示す好人物だろう。
本名は池口小太郎、ペンネームは知らない人はいないくらいのベストセラー作家・論客だ。安土桃山時代に堺から谷町に住んだ商人である「堺屋太一」から採ったもの(堺屋は屋号にあたる)という。2010年の上海万国博(7308万人)に破られるまで、世界記録を保持していた日本万国博を企画・開催し、また沖縄観光開発やサンシャイン計画も推進した人物。現在、知価社会の考え方へ、つまり、近代工業社会の考え方から商人的考え方へ社会がシフトしていることを指摘あするのは、自らが堺商人のDNAを持っているからだろうか。
堺屋の本によると、今の日本は、人の苦しみと煩わしさを減らす方ばかりが強調されている。何とも暗い。
人間は、安全なら幸せと思えるほど単純ではない。
だから、これからの全ての産業は、「人を喜ばせる」という視点が元になっていくだろう、ということだ。
それが、企画力であり、プロデュース力。人を喜ばすことができれば、「人を呼ぶ」ことができる。
魅力のあるところに、人は集まる。
世の経済的な営みには、3つの種類がある。「物を造る」「価値を移す」「人を呼ぶ」だ。
これまでの日本は、ひたすら「物を造る」ことに努めてきた。そして、1980年代には大成功した。規格大量生産を整えて「物造り大国」になった。近代工業社会の考え方が崩れ、このため、欧米の先行地域では「物を造る」営みが衰えた。
「満足の大きいことこそ人間の幸せだ」という発想が広まって、それに代わって発展したのが、「価値を移す」営みだ。物販、運輸、金融、通信などで、近代経済学では別々に分類されているが、実はこれが古くから「商人の営み」とされた産業である。そして今は、物販は伸び悩み、運輸は格安航空券に傾き、金融は破綻が相次いでいる。発展が続く通信の分野で報道よりも楽しみを交わす類が広まっている。
いよいよ世界は「人を呼ぶ」営みへと傾いている。現在は、まさに「人を呼ぶ」ことで富を生み出す、知価革命の時代になってきた。その「人を呼ぶ」営みにも表裏二面がある。人を楽しませ喜ばせる積極的な方向と、人の苦しみや煩わしさを減らす消極的な方向とだ。
後者の代表例が医療や介護、安全や治安、そして保険と防災。前者の典型がイベントと観光、非日常的な楽しみと歓びを与える産業である。
例えば、ジョージア州アトランタの観光開発を手掛けて成功したというアメリカのツーリズム・プロデューサー、アラン・フォーバスから著者が教わった「アトラクティブス」の概念の紹介がある。
「アトラクティブス」とは、「あれがあるから沖縄へ行こう」と思える要素のことだそうで、下記の6つに集約されるようです。我孫子の中でどれも無理であれば観光地としての取り組みは無理なわけで、事実、私が籍をおいた観光学研究でも、どの自治体でも可能であるわけではないと結論している。
1.歴史――歴史上の有名事件の現場や歴史的建造物
2.フィクション――小説、映画、ドラマで有名になった名所や名物
3.リズム&テイスト――音楽が楽しく、食事が美味しい
4.ガール&ギャンブル――きれいな女性とスリル
5.ショッピング――名物名品があり、賑わいに富んだ街並みがある
6.サイトシーイング――風光明媚、奇勝、絶景がある
もっとも、人を楽しませる営みは、偶然にできることでも、「他の真似」で成功できるものではない。
@覚悟を定めて地域が全力で取り組み、A頭脳を絞って考え、B言葉を極めて人を説いてこそできると説いていおられる。
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改めて考えてみると「人を呼ぶ営み」、楽しませ喜ばせることは、3・11以降の社会にとっても意義のあることなのだ。シニアにも女性でもAはいくらでも取り組みが考えられる。@さえできれば、Bも極めることになるはずだ。我孫子の活性化に、観光とイベント、地球サイズで人を呼び込むという策も探せばまだあるか、と思い巡らすと、アイスバーンで凍っていた週明けが明るい気分になってきた (*^_^*)