2011年09月06日

原発ゼロの選択の国、オーストリア

IAEA(国際原子力機関)の本部はウィーンにある。しかしオーストリアという国には、原発は1カ所もない。  

 この国では伝統的に水力発電が主流だ。2009年の総発電量68974 ギガワット時の62,3% が水力で、33,9 % が火力で、2,9 %が風力・太陽光など再生可能エネルギー源で行われており、その他わずかな電力を輸入している。
 国民1人あたりの年間消費電力量は1569 キロワット時(工業用を除く)。今後は再生可能エネルギーによる発電をさらに推進する方針だ。経済家庭青少年省が3月に提出した新法案では、この分野への設備投資に1億ユーロを追加拠出し、輸入電力に頼らない、つまり間接的な原発依存から脱却する態勢を2015年までに確立する意向を明らかにしている。
 2020年までには再生可能エネルギーの割合を電力消費量全体の34%にまで引き上げ、エネルギー効率を20%高め、同時に温室効果ガス排出量を大幅に引き下げることが目標だ。

 とはいえ、オーストリアでも、これまでに他国のような原発建設の動きがなかったわけではない。

 1960年代以降、政府と電力業界では原子力発電の経済性に着目して原発建設への機運が高まり、71年には原子力発電の導入を決定、翌年ニーダーエスタライヒ州ツヴェンテンドルフ村に同国初の原子力発電所が着工された。76年にはさらに国内3カ所で原発が計画され、原子力を軸としたエネルギー政策への転換は着々と進んでいた。
 しかし、78年11月、完成していた原発1号機の稼動開始の可否を問う国民投票で、「反対」が50,47%で過半数を獲得、これに従って稼動が見送られたのである。保守派野党による反対キャンペーンも功を奏したが、それ以上に、国内はもちろん世界的に反核とエコロジーの市民運動が盛り上がっていたことが大きい。真新しいツヴェンテンドルフ原発は、その日から潔く“眠り姫”となった。翌年にはスリーマイル島原発事故が起こっている。 

 ツヴェンテンドルフ原発の総工費は90億オーストリアシリング(約6億5000万ユーロ)。今日までの維持費総額は約10億ユーロに上るという。既に採用されていた約200人の従業員は国内の火力発電所やドイツの原発へと転職していき、搬入済みだった核燃料は80年代までかけてすべて搬出した。
 思わぬ方向転換を強いられた電力業界は、79年から88年にかけて急きょ5カ所の火力発電所を国内に増設、需要増に対応した。その後の99年、連邦憲法律に「オーストリアで核兵器を製造したり、保有したり、実験したり、輸送したりすることは許されない。原子力発電所を建設してはならず、建設した場合にはこれを稼動させてはならない」の項が盛り込まれ、反核の誓いは不動のものとなったのである。


 こうした歴史をもつオーストリアが、福島の原発事故以降、世界に対して積極的に反核発言をしているのは当然だろう。事故後すぐに、経済家庭青少年省のラインホルト・ミッテルレーナー大臣は強い調子でコメントを発表した。  

 「日本の原発事故は、原子力発電が決して安全で持続的な発電手段でないことを露呈した。この脅威に対する正しい答えはただひとつ、原発の撤廃である。それがすぐに実現できないなら、しかるべき安全措置が講じられるべきだ。オーストリアはEU内の原発に対する“ストレス・テスト”と、その結果の公表を要請する」

 ストレス・テストとは、天災やテロを想定した原発の耐性審査である。EUの原発保有国は14カ国、圏内には計143カ所の原発がある。オーストリア1国が核を廃絶しても、陸続きの近隣国で事故が起こればお手上げなのだ。
 3月24・25日の両日に開かれたEUサミットでは前日にヴェルナー・ファイマン首相が現地入りし、テストだけでなく加盟国の“脱原発促進”も議題に盛り込むよう、バロッソ欧州委員会委員長に直接働きかけた。これは実現しなかったが、サミットの協議では加盟国がストレス・テスト導入で合意。6月末までにテストの実施条件と対象範囲を策定し、今年末までに各国で実施、結果を公表することが決まっている。

 しかし、英国やフランスなどの強い抵抗もあり、実際にはテストは義務でなく各国の任意で実施され、テストをクリアしなかった原発への対処も未決定となっている。原発の建設と運営は基本的に加盟国各自の判断とされており、EUは現時点では顧問的な役割にとどまっているにすぎない。

 しかし、ファイマン首相は「ヨーロッパで原発技術のリスクを公にすることは、許容されるだけでなく、市民が望んでいることでもある」と強調。今後も欧州委員会だけでなくユーラトム(欧州原子力共同体)などを通じ、積極的にEUおよびヨーロッパでの反核運動を推進する意欲を新たにしている。

 かつて原発1号機に「反対」を唱えた、すれすれの過半数。辛うじての選択が30年後のいま、当時国民が想像した以上の重みをもってオーストリアの国政を支えるだけでなく、国境を超えたヨーロッパ全土の反核活動を後押ししている。


http://webronza.asahi.com/global/2011032900001.html 

田中聖香  

筆者プロフィール
文化・社会・アートをテーマに執筆、在独ジャーナリスト。
関西学院大学文学部卒、ロンドン・スクール・オブ・ジャーナリズム修了。
一児の母。





ツヴェンテンドルフ原発跡地。ドイツの原発の研修などに使われている。
09年に電力会社EVNが太陽光発電施設を建設した(写真手前)、バイオマス発電も計画中=写真提供:EVN 




posted by Nina at 22:05| 千葉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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