松永 和紀(まつなが わき)さんは、科学分野の女性ライターです。インターネットのコラムで、今の市民感情をきっちり言い当てていると思う部分があったので、概略して紹介します。皆さんは、どうお考えでしょうか。
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今まで「安全である」としか言われてこなかった原発が事故を起こした、というのは紛れもない事実だ。そしてそれ以上に、後の対応の不手際、情報をきちんと明らかにせず、普通の市民に分かってもらおうという姿勢を見せず、決まりきった文言を繰り返す姿勢に、国民はいらだっているように思える。
信頼できない相手がいくらリスクを語っても、理解にはつながらない。同志社大学心理学部の中谷内一也教授が「リスクコミュニケーションに信頼は不可欠」と常に言うけれど、信頼が根底から崩れた今、国や原子力安全・保安院、東京電力などがいくらリスクの大きさを国民に分かってもらおうとしても、難しいだろう。
「全部信じられない。自衛するしかないんですよ」「何かしなければならないはずなのに、何をしたら良いかわからない」たとえそれがどれほど非科学的でも、と焦っている母親、父親達の心をすっぽりと入り込む。
「科学的に意味がないから、そんな無駄な努力はやめなさい」では、落ち着きどころがないのだ。
●矛盾する情報の垂れ流しが不安を産む
国や関係者はまずは、率直に情報を公開し、きちんと説明することからはじめる必要があるのでは。一つは原子力発電所の現状と見通し、二つめが、事故に起因する環境や食品、水などの汚染の状況と対処法について、である。
私は原子力発電については不案内なので、後者について考えると、食品や水の汚染に関して、ていねいに説明する努力がなされているとはとても思えない。二つの矛盾する情報が同時に流されていて、多くの人たちが、わけがわからなくなっているのではないか。
「放射性物質の摂取、放射線への曝露はできるだけ少ない方が良い」といいつつ、暫定規制値を設定し、「暫定規制値を下回っていれば安全です」と言っているのだ。この二つは一見して完全に矛盾している。 食品安全委員会も、緊急取りまとめで「食品中の放射性物質は、本来、可能な限り低減されるべきもの」と言いつつ、健康影響がないと考えられる「指標値」をとりまとめた。しかし、なぜこういうことになるのか、市民の率直な疑問に答える詳しい説明がない。 遺伝毒性発がん物質に関するこれまでの議論、放射線の影響に対する疫学調査結果を知っていれば、この分野の研究にかなりの不確実性があり、データが不足していることが理解できる。それを踏まえて現実に対処しようとした時に、この矛盾する二つのメッセージを国は出さざるを得ない、という事情も分かる(このことについては、明日から別稿で詳しく解説していきたいと思う)。でも、そのまま二つの事柄をぽんと投げ出されるだけでは、背景知識のない一般市民には分からない。
科学の不確実性を今こそ、率直に語るべきだろう。科学者も国も機関も、「分からないことが多いのだ」と明確に伝えることから始めないと、信頼は回復しない。「分からないことが多いけれども、科学的に確実なことから類推して、なおかつ極力安全側に立った考え方で規制を敷いている」と市民に語りかけ、その限界も語るべきではないか。なのに、現状では多くの科学者も国も、矛盾する情報を垂れ流しながら、不確実性を隠して「安全です。風評被害を防ぎましょう」の一点張りとなっている。
矛盾した情報を理解できない市民をバカにしているように見えて、不愉快にもなってくる。 福島第一原発はまだ放射性物質の外部への放出が止まっておらず、今後の見通しがたたない。現状では、市民が不安になって当たり前、福島産や茨城産の農産物、水産物が売れなくなって当然。風評被害の責任を、市民に押し付けないでほしい。
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松永さんの経歴:長崎市出身。京都大学大学院農業研究科修士課程修了)毎日新聞社の記者として10年ほど勤務した後に退職し、その後は、科学分野のライターとして活動している。多角的な視点で食の課題に迫り、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』で日本科学技術ジャーナリスト賞2008を受賞。2011年には、消費者団体
「FOOCOM.NET」を設立し、編集長に就任した。毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。
posted by Nina at 18:28| 千葉 ☁|
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